福冨諭の福冨論

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手順とコツ

杖術をベースにした体術はあまり練習する機会がないのだけど、珍しく昨日稽古してきた。持っていった話題は「杖術の動きがそのまま体術の動きになる。逆にいえば杖術を練習すると漠然と体術がうまくなるわけではない」というもので、詳しくは20周年の記事に書いた通り。その場で気付いたのが「杖術の動きを応用するということだけでは説明がつかない、二人組で稽古するからこそわかるものがある」ということで、これをとっさに「これはコツの世界になっちゃってますけども」というような言い方をした。これは以前から「コツの話はいいから手順を教えてほしいなあ」みたいな感覚があったからで、「コツ」や「手順」という言い方が適切だとは思っていないのだけども、仮にそう呼ぶことにする。

手順とコツは明確に分けられるものではなくて連続したものだし、手順の中にコツがあり、コツの中に手順があるというような入れ子構造にもなっているが、分けて考えると説明がしやすいという利点があるので、便宜上分けて考える。ここでいう体術の手順は全て杖術の動きを応用したものなので、そういう意味でも分類しやすい。以前稽古していたもので、昨日も検証したものを挙げると

  1. 柾目返し
    • 手順: 杖術の「影踏み」の手を上げていくところを利用して、片手取りの手を上げていく
    • コツ: 受けがいなしにくいように、お互いの腕の方向を調整したり、胴体の中心に向けて力を出したりする
  2. 斬込入身
    • 手順: 杖術の「影踏み」の手を下げていくところを利用して、交差した手刀を斜め下に崩していく
    • コツ: 受けに体重をかけて動きを封じる
  3. 捧げ持ち崩し
    • 手順: 杖術の「影踏み」の腰を沈めるところ利用して、腕を掴んだ受けごとしゃがんでいく
    • コツ: 受けの持ち方から弱点を探って、少しだけ押すか引くかして支えにくいようにする

の3つで、下に書いたものほどコツの占める割合が高くなっている。しかしまずは杖術の動きが体術の手順として使える理由を書く必要があるだろう。それは

  • 二人組で稽古する体術より、家で一人で稽古できる杖術の方が練習量が多い
  • 手足を連動させた動きとして覚えている
  • 脚で出した力が手に伝わるような強い姿勢である

というもので、手順があるからとっさに迷わなくていいし、手足をどう連動させようかと考える必要もなく、コツの使い方に集中できる。また強い姿勢というのも重要で、斬込入身でいえば受けの動きを封じるための力が前後方向で、崩していくのが横方向になるのだが、前後方向の力を緩めずに横方向に動くために必要になってくる。柾目返しだとやや抽象化してくるが、取りの胴体が動くと受けの胴体も動くといった状態を作るために必要になる。

手順とコツは別の表現もできそうだなと思って考えてみたのだが「重さで崩して動きで投げる」というのが言葉としては格好いいと思った。

コツは悪意・意地悪の類いでもある。手順は善悪のない客観的なものに感じられるが、相手を意識して、相手のやりにくいように力をぶつけていくのだから、実技で悪意を表現しているという感じがする。今考えると、こうやって悪意を相手にぶつけていくのを良しとするか否かという議論は以前からあった。今は結論を保留しておく。

コツの中にも手順はある。例えば斬込入身で受けに体重をかけるとき、右足だけ上げてよりかかるとか、左足を軸に体を回転させて、左の足首や膝関節が自然に曲がる角度に持っていくとかがそれにあたり、これは杖術の下段抜きの応用である。

またコツを意識し始めると、斬込入身でいえば体重をかけて受けの動きを封じた時点で型が成立しており、後の横に崩すところはオマケという考え方も出てくる。「この技はどうやるんですか」と聞いてコツの話が返ってきたのはこういう心理かと今さら理解した次第である。僕もこれからはコツについて考える割合が増えていくことになるだろう。ただし手順があってこそコツを理解できるとか、コツが成立していることを確認するには手順が必要とか、そういう点からも手順は重要である。