「ビジネスP2Pと草の根P2P」では草の根P2Pという言葉を提案しました。 草の根P2Pはうっかりすると非合法な利用に流れてしまいますので、 その目的をよく考えなければなりません。 「本来なら有料の作品を無料で手に入れたいから」というのでは困ります。 目的として次の2つを考えてみました。
- 資源の有効活用。
- 耐障害性の向上。
資源の有効活用
資源とは主にハードディスクの容量のことです。 大容量化して余っているので何かに使いたいものです。 回線帯域もユーザの側からすれば余っていて、 契約の上限まで使いたいところですが、 ISP全体でみると決して余っているわけではありません。 回線は無駄遣いしないようにしたいです。
耐障害性の向上
面白い作品、よく使うソフトの配布サイトが何かの原因でアクセスできないことがあります。 もし別の場所にコピーがあれば、それを使うことができます。
実装
この目的を達成するにはどうすればいいか。 例えばWinnyにファイルを流すというのも手です。 でももっと単純なのは自宅サーバとしてHTTPサーバを立てることです。
確かに手順は面倒です。 これを自動化・半自動化できたら便利かもしれません。
さて、この状態をよく見てみると、一種のP2Pになっています。 検索エンジンを中央サーバ、自宅サーバをノードとみると 第1世代P2P(ハイブリッドP2P)と同じものです。
実験的にfuktommy.ddo.jpでミラーしてみます(今はミラーしてません): http://fuktommy.ddo.jp/mirror/。
本当に有効活用なのか?
しかし、これは本当に資源の有効活用なのでしょうか。 第1回P2P勉強会での「オーバーレイネットワークとIPネットワークの狭間で」と題された講演によりますと、 P2Pはユーザにとっては帯域を有効活用なんですが、 ISP(インターネット・サービス・プロバイダ=接続業者)にとっては困ったことになります。 「帯域を有効活用する」というのはそもそも必要がないようなのです。 次にハードディスクの有効活用という点ですが、 これは草の根P2PでなくてビジネスP2Pでもいいわけです。
耐障害性の向上はどうでしょうか。 ソフトウェアをダウンロードしようとしたらサイトが落ちていた。 そのときミラーがあれば便利。 それはその通りです。 しかしミラーされているものには、 本来のサイトで配布されているものと同じであることや、 ウィルスやトロイが仕組まれていないという信用がありません。 ではソフトウェアではなくて面白いFLASH等ならどうなのか。 これは本来の配布サイトから入手できなくても、 すぐにミラーから入手する必要はないと思います。 掲示板などで「手に入らない。誰か持っていないか?」 「僕が持ってます。どこそこで再配布します」と交渉すればいいのです。
となると小さなファイルの共有を目的とした草の根P2Pは あまり必要がないことになります。
ビジネスP2Pに吸収される?
もともと草の根としてスタートしたものであっても、 よいものなら資金が集まってきてビジネス化するような気がします。
「金がなくてもアイデア次第で良い映画は出来るんだ」
あえて断言するが、そんなことは絶対にない。
本当に良い映画が出来るようなアイデアなら、
そのアイデアには必ず出資する人が現れる。
クズビデオ49日 - Bazil's Site of "B"より
(余談ですが引用部の存在は1998年から知っていました。
当時よく読んでいたサイトの1つだったのです)
例えばファイル共有ソフトが社会に受け入れられるとしたら、 音楽や映像の配信事業と一体化したサービスとなっていることでしょう。 個人で映画を作ったが配布する予算がないからP2Pで配布する、 というシナリオはちょっと考えにくいです。
草の根P2Pとして残るものとは
ビジネスP2Pに吸収されずに草の根P2Pとして残るとしたら何があるでしょうか。 正直いって悲観的な未来像しか思い描けません。
- Freenetのような実験的プロジェクト
- 草の根である方が身軽に行動できますが、 資本を生かして開発するプロジェクトが支配的になるかもしれません。 例えばGoogleは積極的に新しい技術を取り入れ、実験的なサービスを行っています。
- 新月のような掲示板ソフト
- アクセスの集中にも訴訟リスクにも耐え続けている 2ちゃんねるという例があります。 新月はP2Pソフトの実験であること以外の魅力はあるでしょうか。
- Winnyのようなファイル共有ソフト、 BitTorrentのようなファイル配信ソフト
- 上で述べたように、配信事業と一体化していくと思います。
結局草の根P2PはビジネスP2Pのマイナーリーグでしかないのでしょうか…
パブリックドメインの作品は共有できる
公開や作者の死亡から十分に時間が経ち、 著作権の消滅した作品であれば共有は可能です。 そのような作品で、絶版となっているようなものならば、 積極的に共有することが社会的貢献とも言えるでしょう。
文章であれば青空文庫がありますが、 今後は音楽や映像作品でパブリックドメインに移るものが増えていくことでしょう。 そうなったときにP2P(自宅サーバも含む)は活躍の場を得ることができます。
自宅サーバはP2P?
上でP2Pに自宅サーバも含めましたが、 草の根P2Pにおいては含めた方が直感に合っているように思えます。 ビジネスP2Pであればユーザにはみな同じソフトを使って欲しいと思うでしょうが、 草の根P2Pならプロトコルさえ共通ならば実装は何でもいいわけです。 サーバ機能とクライアント機能の分離も、自由な実装の1つです。
「P2P=サーバ+クライアント」と考えたとき、 1つのソフトにサーバとクライアントの2役をさせることもできますが、 1つのコンピュータにサーバソフトとクライアントソフトを入れてもいいですし、 サーバ用PCとクライアントPCで外部からは1台に見せてもいいわけです。