福冨諭の福冨論

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20周年

旧恵比寿稽古会に初めて行ったのが1998年の夏だったはずなので、甲野先生の系統の武術を稽古するようになって20周年ということになる。もっともそのうち半分はブランクなのだけれども。

今もそうだけど、当時も甲野先生は指導のカリキュラムを持っていないから、初心者がまず何を練習すべきかということに対しても当然指針を示してはくれない。なので自分で考えるとか、周りの人に聞くとかしてやっていくことになる。センスのいい人は数ヶ月くらいで要点を掴んでしまうこともあるようだ。結論を先取りしちゃうと、僕はその人の数ヶ月分に20年かけたということになる。

さて、当時の稽古会にはその後各種武術のインストラクターになるような人たちも何人もいたのだけども、初心者のための指針を示せる人はいなかったように思う。正確に言えば「この技はどうやるんですか?」という質問には答えてくれるのだけれども、そこから「君はまずこの練習をすべきだ。この練習にはこういう要素が含まれている。その要素を先ほどの技で使えばいいんだ」みたいに膨らませられる人がいなかったということである。センスのいい人はその辺の関係性に自力で気付いたということだし、そういう人に質問してもいい感じの答えが返ってこないという点では僕の質問もよくなかった。

というわけで「正面の斬り」と「柾目返し」という座り技ばっかりを練習してた。甲野先生が1994年頃に井桁術理に気付き、全部の技を再構築したときこの技を主に練習してたという話があったので、きっとこれが大事なのだろうと思ったのだった。同じように考えた初心者の人も何人もいた。しかしこれはいろいろな意味で誤っていた。まず甲野先生は定期的に新しい術理を発見しているので、井桁術理だけを特別扱いすべきではない。また94年頃の先生にはまず試してみたい動きがあって、それをこういった技で検証していたのだから、試してみたい動きが頭の中にない状態では練習にならない。

「正面の斬り」にしても「柾目返し」にしても、できるできないは別として技の手順を知りたいと思っていて、いろいろ質問をしたが結局わからなかった。手順と言われても答えようがないというのは今考えるとわかる。しかし今でもこの要素を手順と呼ばずになんと呼ぶべきかというとわからないから、自分の中では手順と呼んでいる。どちらにせよ、手順がわからないと練習できないし、練習できないからうまくならない、みたいな悪循環に入って、たしか2年くらいで稽古会には行かなくなったと思う。

2011年の夏から恵比寿稽古会のT先輩が主宰する機縁会という稽古会で杖術と体術を習うことになった。この杖術

  1. 甲野先生の杖術をベースに
  2. 黒田先生の棒術をビデオか何かで見て取り入れ
  3. T先生が10年くらい工夫したものを
  4. 我々に教えて動きをみてさらに改善したもの

というものであるようだ。杖の持ち方や体捌きに黒田先生の棒術の影響があるように見える。杖術は手順があるというのが強みで、一通りの型を覚えるところまでいった。型を一式習ったというのは20年やってこれだけ。

体術も面白いことになっていて、T先生が主に練習していて、おそらく教えたかっただろうものは空手や中国武術をベースにした突き蹴り系の体術だったはずだ。それを我々が「甲野先生みたいなのを教えてくれ」とリクエストしたものだから、その場でそういった体術が産まれてきた感じがある。主に「斬込入身」と「柾目返し」という2つの立ち技で、偶然なのか座り技の「正面の斬り」と「柾目返し」をそれぞれ立ち技にしたものになっている。

これらの体術の型は未だに手順がわからない。T先生自身も「これらは検証用のもので、この型で練習するのは無理」「指導者が指導できるように作られているのが(古流柔術の)本来の型だが、その意味でこれは型ではない」みたいに諦めていた。一応これらの型の手順として推測してるものはあって、それがこの文章の結論となるだろう。

その機縁会も2015年にT先生の仕事の都合で休止になってしまう。その後は恵比寿稽古会の先輩でもある斎藤先生から合気道を習うことになるのだけど、これは現在進行形なので割愛。合気道を習う中で機縁会の体術について手順が推測できてきたので、それを結論として書くことにする。

杖術は手順があるので覚えやすいし、1人で練習できるので、まずは杖術をたくさん練習する。その中の手を上げる動作をなるべくそのまま、受け(練習の相手役)に手首を掴まれた状態で行うことで「柾目返し」になる。杖術の手を下げる動作を、受けと手刀を合わせた状態で行うと「斬込入身」になる。腰を落とす動作を、受けに腕を掴まれた状態で行うと「捧げ持ち崩し」になる。まずは受けに協力してもらって杖術と同じ姿勢から同じ動きで技ができるように状況を作ってもらえばいいし、難易度を上げるならばそういう状態に誘導していけばよい。というのはあくまで推測ではあるけれども、機縁会の体術は機縁会の杖術をもとにして、こうやって作られていたのだと思う。

というようなことに、恵比寿稽古会時代のT先生は数ヶ月で気付いていたようなのだ。僕は20年かかった。